ところで、日本の救急システムの現状はどうなっているのか。日本では救急医療を担当する病院が、1次救急病院(軽症)、2次救急病院(中等症)、3次救急病院(重症)に別れ、医療する側の論理で診療範囲が決められています。そして必要なら高次病院への紹介や転送という形で対応しているのです。
ところが、この紹介や転送はあまりうまく機能していないのが実情です。重症度とは診療した後の結果論であり、診療する前から軽症を診ます、中等症を診ます、重症を診ますと言っても、患者さんにはわからず診療する側の一方的な論理でしかありません。また、日本の救急医療の中心は3次救急病院(救命救急センター、高次救命救急センター)が中心ですが、3次救急病院が対応する救急患者の割合は全救急患者のわずか5%前後にしかすぎないのです。
このように重症かもしれないが10%にも満たない患者のことが中心に全体の救急医療が述べられることには大きな問題を抱えています。そこには、3次救急医療ができれば、1・2次救急医療はできる、という古くからの保守的な考え方が根強く残っているからでしょう。ところが、3次救急病院で教育を受けた医師が1・2次救急病院では、診療できない・したがらないという現実が4・5年前からクローズアップされてきました。
なぜなのか、それは3次救急病院で行っていた医療は重症の救急患者の治療であり、1・2次救急病院で行っている医療は診断や初期治療やアドバンスド・トリアージなどの初期診療が主であり、お互いの診療内容が全く違うからです。ここでもう一つ問題なのが、この1・2次救急病院で行われている救急医療が初期診療としても、各科が相乗りする形で行われているため中途半端になっているという現状です。
日本救急医学会ではこの北米型ER方式の診療をどう考えているのか。日本の救急医学、医療の流れは外傷外科から始まりクリティカル・ケア(重症患者の治療)がその主たるものであった。つまり、救命救急センターやICU(集中治療室)で3次救急患者のクリティカル・ケアをすることが救急医療であるように言われ、行なわれてきたのです。
ところが4〜5年前から、そういうところで研修、教育を受けた医師が一般救急病院へ行った時、すべての救急患者の初期診療(診断、初期治療、アドバンスド・トリアージ)ができない、しないという、一般救急病院からの不満、そして、一般救急病院ではクリティカル・ケアを行なう医師よりもすべての救急患者に対する初期診療ができる医師が欲しいという現状が出始めてきました。それに対し、今まで3次救急患者に対応できればすべての救急患者に対応できるとしてきた救急医学会も1次から3次までのすべての救急患者に対応できる医師を養成しなければならない、という方針に態度が変わってきたのです。
そういう中、平成13年度の救急医学会では救急医学の柱の一つに、北米型ER方式の診療が必要であると言われるようになり、平成14年には、これからの総合病院の救急部門は北米型ERにならざるを得ないであろう、という意見が出始めてきています。これは日本の救急医療が患者や現場からのニーズに伴い、救急医療の考え方も変わらざるをえなくなり、その大きな転換期にさしかかったことを意味するものです。ただ、この北米型ERとクリティカル・ケアの扱いについては、救急医学として二者択一というものではないはずです。救急患者を扱うという点では同じですが、その目的も方法論も全くちがうもので、前者は救急医療のなかで診断を中心とした初期診療の部分を分担し、後者は治療を中心としたクリティカル・ケア(後期診療)を分担したものです。今の日本では、やはり双方をうまく両立させていくことが必要だと思われるのです。
いずれにしても、時代の流れからして、北米型ERのシステムは時代のニーズに最も近いシステムのように思われます。これをどのように発展、成長させるかが大きな課題でしょう。ただ、日本ではこのシステムを採用している医療機関はまだまだ数少なく、すべてが試行錯誤の繰り返しであるというのが現実の姿です。 徳洲会グループでも病院それぞれの状況や考え方、地域のニーズなども違いますので、継続的な研究と実践が必要です。